大本命のミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」が何部門を制するか? 26日(日本時間27日)に発表される米アカデミー賞の行方を映画評論家の渡辺祥子氏、芝山幹郎氏と占った。

 ここ数年、混戦が続いたオスカー争いだが、今年は久々に大本命が存在する。32歳の新鋭デイミアン・チャゼル監督の「ラ・ラ・ランド」。前哨戦のゴールデン・グローブ賞で候補となった7部門すべてで受賞。勢いは止まらず、13部門で14ノミネート(主題歌賞候補に2作品)となった。

 ロサンゼルスにやってきた女優の卵と売れないジャズピアニストのシンプルな恋物語。「雨に唄えば」「シェルブールの雨傘」など名作ミュージカルへのオマージュも随所に織り込む。

■「夢あり懐かしい」

 渡辺祥子氏は「ミュージカル映画ならではの夢があり、懐かしい。同時に現実と夢想を二重に見せるような斬新な方法もある」と評する。芝山幹郎氏も「地味でしんどい候補作が多い中、唯一明るい作品で、映画的幸福感に満ちている。多くの引用があるが、破綻せずに最後まで運んだ手腕は大したもの」と語る。

 作品賞の対抗馬はこちらも37歳と若いバリー・ジェンキンス監督の「ムーンライト」。すさんだ町の孤独な黒人少年の成長を少年期、青年期、成人後の3部構成でリアルに描く。芝山氏は「見る者に考えさせる類例のない映画。紋切り型の正義漢や悪漢は出てこないが、肉体、時間、運命を描いている」と評価する。

 監督賞も両作の争いになりそうだが「華やかさでチャゼルか」(芝山氏)。渡辺氏も「映画愛に満ちた監督が、古いものの良さを生かしつつ、新しい映画を目指した。そこがアカデミー会員に好感をもたれる」とチャゼルを有力視する。

■主演女優賞も有力

 主演女優賞も「ラ・ラ・ランド」の華、エマ・ストーンが強そう。芝山氏は「ケネディ夫人の既成のイメージを覆した」と「ジャッキー」のナタリー・ポートマンも高く評価する。名優イザベル・ユペールの「エル」での熱演も見逃せない。

 主演男優賞は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のケイシー・アフレックが最有力。ニューイングランド出身のさえない男が、兄の死を機に故郷に戻り、心の傷と向き合う姿を繊細に演じた。ライアン・ゴズリングが候補の「ラ・ラ・ランド」に一矢を報いるか。

 助演男優賞は「ムーンライト」のマハーシャラ・アリ、助演女優賞は「フェンシズ」のビオラ・デイビスと共に黒人が有力。スタジオジブリ製作「レッドタートル」が狙う長編アニメ賞は「ズートピア」が強そう。

 他の作品では渡辺、芝山両氏とも「ハクソー・リッジ」を評価する。宗教上の理由で銃を持たずに沖縄戦に参加した衛生兵の実話だ。同じアンドリュー・ガーフィールド主演の「沈黙」は撮影賞の候補となった。

 各部門は接戦だが最終的に「ラ・ラ・ランド」独走の可能性もある。「アメリカ映画らしいアメリカ映画が少ないから」と芝山氏。作品賞受賞ならミュージカルとしては「シカゴ」(2002年)以来だが「舞台の映画化でなく、久々に映画オリジナルのハリウッドミュージカルであることへの評価が高い」と渡辺氏。

 焦点は受賞部門数。渡辺、芝山両氏とも「10部門くらい行きそう」と見る。過去最高は「ベン・ハー」(59年)、「タイタニック」(97年)、「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」(03年)の11部門で、これを抜くか。ただ「タイタニック」「リング」は俳優賞がない。作品、監督、主演男優、主演女優、脚本または脚色の主要部門5冠なら「羊たちの沈黙」(91年)以来だ。

(編集委員 古賀重樹)

[日本経済新聞夕刊2017年2月20日付]