熊本地震では、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの当事者たちも被災し、避難所での共同生活の困難さに直面している。「周囲から奇異の目を向けられる」「男女別のトイレを使えない」といった悩みだ。トランスジェンダーなどの性的少数者(LGBT)の支援や啓発活動に取り組む団体「ともに拓(ひら)くLGBTIQの会くまもと」(熊本市)の今坂洋志代表(63)は「非常時こそ、普段は見えにくい性的少数者への偏見や配慮不足の問題が顕著に出ている」と指摘している。

知らないと損する罹災証明書活用の流れ

 体は女性として生まれ、性自認が男性というトランスジェンダーの長田悠さん(25)=熊本市=は、16日の本震直後に近所の小学校に避難した。真夜中の突然の出来事だったため、普段胸を締めるために着用する専用のシャツを持ち出せなかった。このため「変に思われるのでは」と男子トイレの使用を不便に感じ、3日後には避難所生活を断念し、宇城市の知人宅に身を寄せた。

 ライフラインの途絶で各地の浴場では被災者への無料開放も始まっているが、長田さんは男女別の入浴施設は利用できず、避難所での生活中は汗拭きシートで体を拭いてしのいでいたという。

 避難所に駆け込んだトランスジェンダーの当事者から相談を受けている今坂代表によると、「周囲の『男?女?』という視線が痛い」「男女別のトイレしかなく、余震が怖くても被災した自宅のトイレを使わざるを得ない」などの訴えが多い。

 トランスジェンダーであることを周囲に公表していない当事者も多く、パートナーとの暮らしを近隣住民や職場に知られないよう、熊本市内の避難所を転々とするカップルもいたという。同会スタッフで、トランスジェンダー当事者でもある前田悠さん(36)は「2週間たった今でも性的少数者への配慮は後手後手に回りがち。避難所でプライバシーを確保する仕切りの完備や、男女兼用の簡易トイレの設置といった迅速な対応が求められる」と話している。

 同会には、他県の性的少数者支援団体から下着などの物資も寄せられている。今坂代表は「できる限りの対応をしたい。困ったことがあれば相談してほしい」と呼び掛けている。

=2016/04/29付 西日本新聞朝刊=