上海世界選手権の開催を1週間後に控えた3月18日、羽生結弦が出場の可能性が濃厚であることが発表された。

 試練というものは、乗り越えられる人間のところに行くのだろうか。この1年間の羽生を見ていると、そう思わざるを得ない。

 11月の中国杯での衝突事故から立ち直り、12月にはみごとに二度目のGPファイナルタイトルを手にする。これで全快か、と思われたのもつかの間だった。

 12月末に全日本で三連覇を果たした後、GPファイナル時から悩まされていた腹痛のため精密検査を受けた羽生。結果は尿膜管遺残症という珍しい病気で、即日手術を受けた。2週間の入院と1カ月の安静が必要とされていたが、練習開始後に今度は右足首を捻挫と報道された。

「万全ではない中で、挑まなくてはならない」

 一体どういう状況なのか。メディアも自粛ムード気味で、これまでそっと様子を見守っていたが、3月18日、日本スケート連盟の小林芳子フィギュア強化部長が、出場する見通しであることを発表。「少しずつ練習量を増やし、最終調整を行なっている」と語った。

 詳しい練習内容などには触れず、「万全ではない中で挑まなくてはならない。気持ちよく氷の上に立てるように見守ってあげたい」とコメント。過剰な報道でプレッシャーを与えるようなことは避けてほしいことを匂わせた。

 11月は中国杯で衝突事故の後、怪我をおして出場したことに懸念を示す声も大きかった。世界選手権の会場は、中国杯が行なわれたのと同じアリーナである。再び万全ではない体で、あえて挑むのは本人の強い意志なのだろう。

 まだ次の五輪まで3年ある。五輪連覇を狙う羽生にとって、今季の世界選手権は、何が何でも守らなくてはならないタイトルではない。最終調整してみた上で、怪我をこじらせるという可能性があるのなら、引くという決断をする勇気も持って欲しいと切に願う。

タイトルを狙うテンとフェルナンデス。

 羽生の体調がよくわからない現状、彼以外で優勝候補の筆頭はカザフスタンのデニス・テンと、スペインのハビエル・フェルナンデスだろう。

 テンはシーズン前半は不調でGPファイナル進出も逃したが、2月の四大陸選手権ではSP、フリーとも素晴らしい演技でISU史上3番目に高いスコアを出した。

 「デニスは好不調はあるけれど、ノーミスで滑ったら間違いなく高いスコアは出る。彼はそういう意味で怖い選手です」

 3度目の欧州選手権タイトルを手にしたハビエル・フェルナンデスは、ライバルについて聞かれるとそう答えた。テンが四大陸で出した289.46は、フェルナンデスが欧州選手権で出した262.49よりも25ポイント以上の開きがある。

 もっとも二種類の4回転を持っているフェルナンデスが、フリーで4回転を3度きれいに成功させたら、もっとスコアは伸びるだろう。いずれも、メダリスト候補であることは間違いない。


小塚は?

 無良崇人にとっては2年ぶり3度目、小塚崇彦にとっては7回目の世界選手権となる。

 今シーズン、表現力もめきめきと伸びた無良は、前回の8位からどこまで順位を上げられるか、楽しみだ。今シーズンはGPファイナル進出も経験し、世界のトップスケーターの一人として自信もついたことだろう。

 小塚は、全日本選手権で見せたようなフリーを再現できれば、メダルを手にすることも不可能ではない。

 2011年銀メダリストであった彼が、表彰台に返り咲いたら感動的なカムバックとなる。パトリック・チャンが休んでいる今シーズン、スケーティングの質では彼の右に出るものはいないといっても過言ではない。長所をぞんぶんに生かして、堂々とした演技を期待したい。

まだいる! 他のメダリスト候補たち。

 忘れてはならないのは、ロシアのマキシム・コフトゥン、そしてセルゲイ・ボロノフである。

 昨年4位と惜しいところでメダルを逃したコフトゥンは、SPから2回、4回転を入れてくるジャンパー。大技の全てを成功させたら、今年こそ表彰台に上がるかもしれない。

 27歳のベテラン、ボロノフは今シーズンGPファイナルで3位に入り、まだ世界のトップクラスで戦う力があることを証明した。

 また、アメリカ勢も油断ならない。今年が初出場となる、新全米チャンピオンのジェイソン・ブラウンは、4回転は持っていない。だが豊かな表現力があり、ノーミスで滑ればかなりスコアを上げてくる。

 地元中国の選手たちも、メダルを狙ってくるだろう。

 昨年7位だったハン・ヤン(閻涵)は、四大陸選手権で3位に入賞して調子を上げてきている。ホームアドバンテージを利として完璧な演技を滑りきったなら、他の選手の演技によっては表彰台のチャンスがある。

 サプライズがあるか。

 それとも強豪たちが順当に守るか。

 今年もエキサイティングな世界選手権になりそうだ。