「女性も喜んでいる」と正当化

鉄道会社は大きなポスターで「痴漢撃退」を呼び掛けている(営団地下鉄池袋駅で)

 東京都内の居酒屋に現れたその男は、年齢50歳前後、セーターにジャケット姿といったカジュアルな服装だった。職業は明かさなかったが、細面の顔つきは気が小さそうな印象を与え、とても痴漢の常習者には見えない。

 取材先に紹介された彼は、ちゅうハイを一杯飲み干すと、悪びれる風もなく、朝の通勤電車の中の痴漢の“手口”を話し始めた。

 「ホームで好みの女性を探し、その後から電車に乗り込むんです。後ろからまず手で軽く触って、抵抗されなければ、今度は強く触る。相手の反応に注意するから、成功率はほぼ100%、自信がある。痴漢されることで、自分が女性と認められて喜んでいる面もあるんじゃないかな」

 痴漢行為を正当化するためか、被害に遭った女性への思いやりよりも、自分勝手で通俗的な理屈が続いた。「痴漢して興奮した後のセックスは普通と全然違う。この刺激がたまらず、どうしても痴漢がやめられない」

 手口に自信のある彼も、数年前、1度相手の女性に腕をつかまれて、必死に否定して逃げたことがある。時々、妻と2人の娘の顔がちらりとよぎるというが、「捕まった時は、出来心だと謝れば、何とかなるようになるでしょう」と言葉を濁すだけ。夫や父親としての自覚も、社会人としての責任感もその語り口からは全くうかがえない。話を聞いていて、欲するがままに物をねだる幼児を思い浮かべた。

 昨年、全国の鉄道施設内で強制わいせつと迷惑防止条例違反で捕まったのは974人。5年前に比べて3倍近くに増えた。今年になってからも、警察官、教師、中央官庁の管理職、医師やテレビ局幹部など、本来社会的に重い責任を担っている人が相次いで痴漢で捕まっている。

 「昭和性相史」の著者で、フリーライターの下川耿史(こうし)さんは、「痴漢は客観的に見ると、幼児的でせこい行為。教師や警官などの立場は、本来なら心理的なブレーキとなるべきものだが、逆に『社会的地位が高いのに痴漢する自分』に興奮しているのではないか。そういった情緒的想像力のたくましさと、実際の行為の幼児性とのギャップは、まさに現代的だ」と主張する。

 立教大学教授で精神科医の町沢静夫さんも、こうした男性たちの幼児性を指摘する。「他人が痴漢をしてうまいことやった、などの情報をうのみにし、独り善がりな性的空想をかき立てて、そのまま現実に移してしまう。欲求を自分で抑制できないという点では、未成熟なのだろう。性的なものを否定するようなしつけの家庭で育てられ、小さいころから本音の部分を抑えられた人は、そうなりやすい」と説明する。

 最近は小型カメラでスカートの中をのぞいたり、トイレや更衣室を撮影する“盗撮”も社会問題化している。高度な機器をよこしまな目的のために駆使して独り喜んでいる姿は幼いというだけではなく、寒々としている。痴漢やこうした盗撮マニアが増えるとしたら、世紀末の性はいかにも寂しい。