◆自分で選ぶ「性別」

トランスジェンダーがテーマの討論会には200人以上が参加。当事者への質問が相次いだ(東京・渋谷区で)

 「邪魔なだけだった脂肪のかたまりがなくなって、本当にすっきりしましたよ」

 1年半前、乳房の切除手術をした自動車整備工の哲さん(23・仮名)は、待ち合わせた都内のホテルの喫茶室で、陽気に笑った。

 生まれ持った体は女だが、心では自分を男としか思えなかった。その不一致に気づいたのは、幼稚園のころ。工具いじりとサッカーが好きで、いつも男の子の中で遊んでいた。ままごとでも、皆にいろいろ指示する「お父さん役」を好んだ。思春期には、セーラー服を着るのが苦痛で、膨らみ始めた胸を手ぬぐいでぐるぐる巻いてつぶそうとしたことも。

 「自分は本当は男だ」と、友達の前で宣言したのは17歳の時。「そうだと思ってた」と、周りの反応は思いのほか温かかった。大学に進んだが、将来を考えて専門学校に入り直し、今の職場へ。「仕事は男と同じ扱いだけど、戸籍上は女なので女性工員枠で採用された。ロッカー室は女性用で、男の仲間にうらやましがられてる」と、明るい。

 ホルモン療法を受けており、生理は止まり、筋肉がつき、ひげも生えた。「男みたいなセックスがしたい」と、ペニス形成手術を望んでいる。

 逆に、体は男、心は女という違和感に長年悩んでいたのは、都内の派遣会社で「女性社員」として働くマリさん(31・同)。「社会からはみ出すのが怖くて」、大学卒業後サラリーマン生活を5年間。ストレスから心身症になり、4年前、「女性として生きる」決心を固め、親にも告白した。「我慢の限界でぎりぎりの選択でした」と、つらい過去を振り返る。

 日本語では「性別」と簡単に語られるが、これには、生物学的な意味での性(セックス)と社会的心理的な性の自己認識(ジェンダー)の2種類ある。そして、1人の人間の中で必ずしも一致しているとは限らない。「トランスジェンダー(性の越境者)」とも呼ばれる哲さんのような悩みは「変態」扱いされることが多く、彼、彼女らは孤独な人生を送ってきた。

 こうした不一致が医学的に治療を要する障害とわが国で認識されたのは、96年5月、埼玉医大の倫理委員会の答申から。98年に同大病院で初の性転換手術が行われた。治療を求めている人は、米国の報告で、男性成人の3万人に1人、女性は10万人に1人。日本では2200―7000人と推定される。

 生物学的性、自己認識としての性、社会の中で求められる性役割、対象としてひかれるのが異性か同性かで分かれる性的指向など、性にはいろいろな側面がある。1人の人がそれぞれどの側面に属するかは、単純ではない。たとえば、「生物学的性は男性、自己認識は女性」というトランスジェンダーが、性的指向では男性を求め、性役割では女性であることにこだわるという場面が十分想定できる。

 服装や化粧、言葉づかいなどでは、男女の差が次第にあいまいになりつつある時代。生物学的なセックスでも性差を超えて、自分で自分の性を選ぶことが徐々に認められようとしている。