東京都八王子市の京王八王子駅ビルのショッピングセンター(SC)で起きた無差別殺傷事件から一夜明けた23日、SC前に設けられた献花台には、凶刃の犠牲となったアルバイト店員、斉木愛(まな)さん(22)=中央大4年=をしのび、手を合わせる人たちが深夜まで途切れることはなかった。【堀智行、神澤龍二】

 <遅くにごめんね。今ニュースで京八の駅ビル本屋で殺人事件があったって!まなちゃんは大丈夫!?年頃も同じだから心配で!元気だよね!?>

 パート従業員、小畑昌美さん(45)=東京都日野市=は22日午後11時すぎ、斉木さんに携帯電話でメールを送信した。テレビが八王子の事件を伝えていた。現場は「啓文堂書店」。斉木さんのバイト先で、年齢も同じことが気になった。しかし、返事はこなかった。布団に入っても寝付けなかった。

 朝6時のニュースで亡くなった女性が斉木さんだと知った。「許せない。殺してやりたい」。献花台を訪れた小畑さんは泣きながら花を手向けた。

 小畑さんは、2年前まで約半年間、日野市のクリーニング店で斉木さんと一緒に働いた。伝票の整理や接客の覚えが早い。ミスも少なかった。人懐こい性格。仲間から「まなちゃん」と呼ばれ、かわいがられた。当時は大学1年生。「地方から出てきたばかりで心細いんです」。そう話していたが、大学生活は楽しそうだった。啓文堂書店のバイトを始めたのを機に、クリーニング店を辞めた。「本が好き」。うれしそうに話していた。

 現場近くに住む会社員の女性(35)は昨年秋、中学2年生だった長女(14)が啓文堂書店で職場体験をしたときのことを忘れない。

 担当が斉木さんとみられる学生だった。ニコニコしながら、本の整理やお客さんへのあいさつを優しく教えてくれた。本が好きだからと書店を選んだ長女は、いい思い出ができたとますます読書好きになった。

 以来、長女が本を買うのは啓文堂になった。22日の夕方も参考書を買って帰ってきた。数時間後、事件は起きた。女性は「長女は大きなショックを受けて、この場所に来られない。だから私が来ました」と手を合わせた。


 東京都八王子市で起きた無差別殺傷事件で犠牲となった斉木愛さんの遺体は23日午後、宇都宮市内実家に帰った。近所の人によると、斉木さんは母と兄、姉の4人家族。知り合いの女性は「あいさつのできる礼儀正しい子だった。何であんなかわいい子が殺されなければならないの」と話した。別の女性(47)も「小学校のころ、下級生の面倒を見てくれる子だった。容疑者が許せない」と怒りをあらわにした。

 「痛かったろうな。びっくりしたろうな……」「自分にも娘がいる。親御さんは言い表せない気持ちだろう」。宇都宮市立陽東中で斉木さんの2、3年時の担任だった男性教諭(49)は、教え子の死をまだ信じられない様子。「容疑者には憎しみを感じる。『誰でもよかった』というのは、あまりにも身勝手」と憤った。

 学校関係者によると、斉木さんは小学生時代、合奏部に所属。小学校卒業文集には、成績上位校しか出場できない中央大会の合奏祭(中央祭)への進出を逃した時の思い出をつづっていた。「やっぱり中央祭に行きたい。けれども、そのことよりも、自分がまず、やれるだけやって、自分で満足がいくように努力することだと思う」。この文集に将来の夢を「ガーデニングデザイナーになって、庭をきれいに色どりたい」(原文のまま)と書いていた。

 斉木さんは進学校として知られる栃木県立宇都宮中央女子高に進学。同校の小野敏夫教頭は「責任感が強く、信頼できる人柄。学業も優秀だった」と、突然の死を悼んだ。【吉村周平、松崎真理、山下俊輔】


 東京都八王子市の京王八王子駅ビルの書店で起きた刺殺事件で、京王電鉄は23日夜、事件現場の「啓文堂書店」を報道陣に公開した。亡くなった斉木愛さんは雑誌コーナーの本棚と本棚の間の通路(幅約1.5メートル)に倒れていたという。周辺の雑誌や通路には血痕が飛び散っていた。

 女性客(21)は刺された後、エスカレーターで10階に上り飲食店店長に助けられた。

 約70店舗が入る同ビルは23日は全館休館としたが、24日は書店が開店・閉店時間を1時間ずつ短縮するほかは、通常通り営業する。【山本太一】


「信じられない」。被害者の女性のアパートの住民は、そう言って絶句した。

 被害者の女性は中央大学入学当時から東京都八王子市内越町にある1K(家賃4万円)のアパートに住んでいた。

 同じアパートに住む女性会社員(41)は、ボーイッシュでジーパンの似合うおしゃれとの印象を持っていた。「細身で小柄。会えば必ずあいさつをする明るい女性でした。アパートの住民で食事に行くほど、みんな仲がよかったのに…」と話した。

 昨夜はショックで一睡もしていないという大家の妻は「面倒見のいい娘さんでした」とだけ答えた。

 被害者の女性は書店に入ってすぐ左側の本棚で本を整理していて不意に襲われ、尊い命を奪われた。

 容疑者は事件後、文化包丁を現場に残して逃走、現場の駅ビルから約400メートル離れたJR八王子駅前にある交番前で取り押さえられていた。

 目撃者らによると、事件後に犯人らしい男が交番前にいるという情報があり、無線などで聞いた数人の警察官が「あっちだ、あっち」と交番方向へ走った。容疑者は「八王子駅北口交番」で不審者尋問に「私がやりました」と答え、取り押さえられた。

 四方を警察官に囲まれたまま自分で歩き、うつむいて無言のままパトカーに乗せられたという。

 居合わせた男子大学生(20)によると、駅ビル前で待ち合わせをしていると、パトカーや救急車が集まってきて、ビル入り口が封鎖された。直後、心臓マッサージを受けながら、担架で運び出される若い女性の姿を目撃。女性は真っ白な顔をしていたという。

 JR八王子駅前の書店前にいた女性会社員(29)はパトカー5、6台がサイレンを鳴らしながら、集まってくるのを目撃。駅前の交番付近に警官が集まり、騒然とした雰囲気となった。女性は「怖い」とおびえたように話した。


東京・八王子市の通り魔事件で殺人未遂容疑で逮捕された容疑者(33)が勤めていた東京都八王子市の板金加工会社は、凶悪な犯行とまじめな勤務態度のギャップにショックを隠し切れなかった。

 容疑者は今年4月初旬、新聞折り込みの「月収18万円」という求人広告を見て直接会社を訪問。面接では、「ずっと派遣で組み立てをやってきた。製造やモノを作ることが大好き」などと話し、複数の地元工場勤務の履歴書を提出。5月の連休明けから、正社員になることを前提に1カ月間の試用で働き始めた。

 昼休みに同僚らと昼食をとるなど、順調に職場に馴染んでいたが、出社わずか7日目で金属の板を織り込む機械に右手を挟み、人差し指、中指、薬指を骨折。警察と消防が出動する大騒ぎの末、市内の整形外科に2週間入院した。

 同行した労務担当者は、病院で父親から「(息子が)家では『オレはこういう仕事にむいている』と話しているので、どうぞよろしくお願いします」と頭を下げられたという。

 容疑者自身も、見舞いに訪れた知り合って間もない同僚に対し、「迷惑をかけて申し訳ない。早く復帰したい。寝返りを打つと指が痛むんです」と気さくに話していた。その同僚も「勤務態度は非常にまじめで、あいさつもしっかりしていた。談笑もしていた」と話している。

 退院後、容疑者は自宅療養のかたわら、今月初旬と17日の2度も会社を訪れ、リハビリの経過や労災手続きなどを報告。労務担当者に「ぜひ、この仕事を続けたいと思っている」と話していたという。

 担当者が、軽作業ならばいつでも復職できると伝えると、容疑者は「9月から復帰できる」と返答し、了承したという。社長からも「正社員となることを前提に戻ってきてほしい」と伝えられており、今週中に再度、経過報告に訪れることを約束して別れたのが最後となった。

 容疑者が勤めていた会社は資本金500万円の有限会社で、従業員約20人の中小企業。主に航空機用精密板金、機内用カートの組立、部品組立、溶接全般、機械加工などを行っている。仕事は板金、機械加工、溶接、組み立てが4本柱で、多数の工作機械などを備えている。

 民間調査会社によれば、ここ数年の売上げは横ばいで、2008年2月期決算の売上高は2億1500万円。


被害者の斉木愛さんは名門の宇都宮中央女子高から文学部史学科西洋史学専攻に入学し、ヨーロッパ中世史を学んでいた。卒論指導をしていた杉崎泰一郎教授は「大変活発で、ゼミではよい発表をし、素晴らしい卒論の準備をしていたところでした」と若い死を悼んだ。

 自らの発表に力を入れただけでなく、他の学生の発表のときには必ず手をあげてハキハキと質問し、ときおり笑いまで誘った。ゼミを受講する席は、いつも一番前だった。

 「ゼミが活発になる原動力でした」

 卒論では伝説上の動物・一角獣について研究していた。アジアからどのように欧州へ伝わったのか明らかにするもので、「非常に独創的で、空想力も豊かでした」と、杉崎教授も完成を楽しみにしていた。

 最後に会ったのは6月中旬。卒論の指導で、斉木さんは「順調に進んでいますが、行き詰まった部分があるので、他の学部の先生を紹介していただけませんか」と願い出て、積極的に他学部の教授にも話を聞きに行った。

 杉崎教授は23日、八王子署で母親ら遺族と対面した。ゼミで積極的に学んでいたことを伝えると、母親は毅然とした様子で、「お世話になりました」と頭を下げたという。

 また、斉木さんと同じアパートに住む女性会社員(41)は、ボーイッシュでジーパンの似合うおしゃれとの印象を持っていた。昨年、一緒に食事をした際、斉木さんは「音楽が好き。ロックを聴く」と話していたという。アパート管理人の女性は「就職の内定も一つ出ていたのに」と声を詰まらせた。