番外編(上)
「中高年の性」に読者から大きな反響

◆もっとオープンに語ろう

 10月27日から19回にわたり連載した「世紀末 性の風景」には、読者からたくさんの手紙やファクス、電話が寄せられた。「性の問題をあおらないで」という拒否反応も一部にはあったが、年齢を問わず、「性について、もっとオープンに語りたいし、悩みを共有したいと思うようになった」など、前向きな意見が多かった。読者の声を中心に3回に分けてお伝えする。



 連載の前半で取り上げた中高年の性をめぐる問題には特に反響が大きかった。

◆勇気づけられた

 熟年世代の「再婚」にみる男女の思い、性のありようを描いた記事には、「勇気づけられた」「まだまだ人生終わりじゃないと思い直すことができた」と、共感の手紙をいただいた。

 この夏、がんで58歳の妻を亡くした米国サンフランシスコ在住の男性(65)は、「何時も心に残る空しさ、悲しさ、悔しさは、最愛の伴侶(はんりょ)を失った者にしかわからない。互いの心の寂しさを分かち合えるパートナーを見つけ、新しい人生への旅立ちにつなげることができるとしたら素晴らしい」と、つづってきた。

 記事で紹介した、熟年シングルの結婚相談を行っている民間団体「太陽の会」(本部・東京、電話03・5386・6221)にも、この1か月で問い合わせが200件を超えたという。

◆性の欲求は生への欲求

 「老いてからこそ、はれやかで絢爛(けんらん)たる性の世界が広がる」という心理学者の波多野完治さんの主張に呼応して、東京都内在住の男性(65)からは、「老いらくの性」と題した400字詰め原稿用紙30枚の力作が送られてきた。「愛なく、恋なく、性もなく、夢も生きがいもなければ、死にたくもなし。生きていても死んでいるような暮らしでは、なんで潤いのある老後といえようか。性の欲求は、そのまま生への欲求である」と書いている。

 神奈川県の施設で働く30歳代の女性は「おばあちゃんたちが暮らす女部屋に、若い男性の介護士さんが入って来るだけで、確かに華やいだ雰囲気になります。甘ったれた声を出すおばあちゃんをみっともないという目で見ていた自分の方が恥ずかしい」と、電話で感想をもらした。

◆老人をあおらないで

 一方で、英国ロンドン在住の68歳の女性は電話で、「70歳の夫は記事を手に握り、『ほら、老人も性欲があるんだ』と、私のベッドにもぐり込んでくる。余生は静かに読書など楽しみながら暮らそうと思っていたのに、老人の性を奨励するような記事に当惑しています」と話した。

 「このまま女を終わりたくない」と揺れる更年期の妻と、セックスに淡泊な夫との心のすれ違いを書いた記事にも、「あれは私のことではないか」と、同様の悩みを訴える声に対し、「これで亭主へのお勤めも終わりと思うと、せいせいした気分」という人もいた。

 共感と反発が交錯しつつも、今まで表立って語られることの少なかった中高年の性を見つめ直そうという真摯(しんし)な態度が、投書の文面や電話の語り口から強く感じられた。


番外編(中)
現代社会の歪み、悩める男と女

◆自分見失わせる「呪縛」

 性の問題は、男女の力関係やストレスなど、現代社会の歪(ひず)みを象徴的にあぶり出す側面がある。

 夫から暴力的なセックスを強要される「家庭内レイプ」の記事には、「私も同じ境遇にある」と、首都圏在住の主婦(50)が涙ながらに電話をしてきた。「きょうも朝からアダルトビデオを見せられ、同様の行為を求められた。断ると顔がはれあがるまでぶたれるので、仕方なく従ってきた。高校生の息子にも気づかれた。どうすればいいのでしょう」。相談機関をいくつか紹介して、受話器を置いた。

 さらに、面倒くさいからとセックスを避ける「拒性症」や、逆に、現実から逃避するためセックスにのめり込む「性依存症」など、社会の歪みが原因と思われる性の問題を取り上げた記事にも、「夫婦仲はいいが、うちの娘も拒性症なのでは?」と、心配する母親など、様々な問い合わせの電話が寄せられた。

 東京近郊の男性会社員からは、「32歳になるのに、性体験がなく、女性と付き合ったこともない。セックスから疎外感を感じている私のような存在も忘れないでほしい」と、ファクスが届いた。

 会ってみると、180センチを超える長身、甘い声。外見からは、女性にもてないとはとても思えない。

 「性欲がないわけではないが、今は家業の手伝いが忙しく、盆暮れもなく、平日は午後11時まで働きづめ。これでは、せっかく知り合っても、デートの約束がストレスになる」と話す。

 ただ、この男性の場合も忙しさだけが原因ではないようだ。1年前、年上の女性に誘われたが、応じることができなかった。「コンドームを着けていても、もしも妊娠させて結婚を迫られたら困る。性病も怖い」という言葉に、強い思い込みが感じられた。

 結婚5年、神奈川県に住む30歳代の主婦は、「子供が欲しいのでセックスしなくちゃと、気ばかりあせる。夫と本を見ながらいろいろ練習しているが、1度もうまくいかない。私、夫のペニスを見るのが怖いんです」と、手紙で悩みを打ち明けた。

 国立千葉病院産婦人科医長で世界性科学会理事を務める大川玲子さんは、こうした悩みを抱える彼、彼女らを、「人1倍まじめで不器用なゆえに、セックスについて何でもありに見える現代社会のはざまで極端に憶病になり、自分を見失っている」とみる。

 男は強くリードしなければならない、女性にとって初めてのセックスは苦痛に満ちた儀式であるなど、社会の定説といわれるいろんな呪縛(じゅばく)にとらわれていることが問題だと指摘する。「ちょっとした条件の違いで、だれもが同じ悩みをもちうる。でも、社会の呪縛は、何か変だなと思うところから解けるもの。自分と、自分が信頼するパートナーの感性をもっと大切にして、いい関係を築いてほしい」


番外編(下)
体と心の性不一致、半陰陽…

◆多様性尊重し合う社会に

 身体的な性(セックス)と社会的、心理的な性の自己認識(ジェンダー)が一致せず、その違和感に悩んでいた人たちが、医学的な治療によって性を選び直して、新しい人生をスタートさせているという記事には、多数の問い合わせがあった。

 ほとんどは、「16歳のおいっこが好きになるのは、小学生時代から男の子ばかり。将来結婚できるのか心配」「感受性の強い年ごろで、子供が苦しんでいる様子が痛いほど分かる。悩みを相談できるところを教えて」という家族やその周辺からのものだった。

 高校3年の娘をもつ東京都内の会社員の父親は、「小さい時からのびのびと、男の子みたいに育てたせいでしょうか。化粧や女っぽい服装を極端に嫌い、彼氏自慢をする女の子同士の話題についていくのがとても苦痛らしい。女であれ男であれ、1人の自立した大人として自由に生きていってほしいと願うが、親は何か手助けできるだろうか」と、電話で打ち明けた。

 相談機関の問い合わせには、全国的な自助支援グループの一つ、「TSとTGを支える人々の会」(事務局・東京都世田谷区赤堤二郵便局留、電話090・3506・4843)を紹介した。埼玉医大の倫理委員会が性転換手術を容認する答申を発表した96年に発足した団体で、参加者は当事者やその家族、医師、カウンセラーなど約1300人。学習会や体験交流会を活発に開いている。

 「身体的な特徴が男性と女性にはっきり分かれていない、半陰陽(インターセックス)のことも知って」と、若い女性らしき声で電話があった。

 同会にも半陰陽の参加者は10数人いる。小さなペニスの下に膣(ちつ)があるなど様々なケースがある。生物学をめぐる最近の研究により、男女いずれかの性器官に分化、発達する段階で、ホルモン分泌のわずかな変動が生物学的性の決定に揺らぎを起こしている事実は解明されつつあるものの、「そうした人たちの悩みはあまり知られていないのでは」と同会はいう。

 「こうした多様な性のあり方が、21世紀の社会に示唆するものは大きい」と、大阪経済大の伊田広行助教授(社会政策)は指摘する。

 「恋愛は、両者にとって元気のもとになり、心の安らぎになる。ただし、今までの男性優位の社会では、男女の区分とそれに基づく性的欲望自体に、上下関係が働いていた。守ってやるとか、尽くしてあげるとか、自分の勝手な幻想を押しつけて、相手の自由を奪ってもきたわけで、制度疲労は深刻だ。男女を問わず、自立した者同士が互いの多様な価値観を尊重しつつ、友愛的でゆるやかなパートナーシップを築いていけば、性の上下関係も変わっていくのでは」

 私たちは、自分の頭の中にある男性像、女性像に当てはまらないものには「異常」というレッテルをはって排除しがちだが、異質なものへの共感こそ、豊かな未来をはぐくむ力になる可能性があることも忘れてはなるまい。